適当にね。 身体が中に浮かぶ感覚。 まぶたを上げたあとに見える風景。 ――ああ、またこの夢か。 荒れ果てた荒野の上に一人佇み、地平線の向こう側に見える砂塵を見ながら思った。 肌に感じる風や空気、匂いですら現実と間違えてしまいそうになる。 しかし、これは夢だ。 砂塵が、徐々に近づいてくる。遠く、地響きを轟かせながら。 ――そうだ。確かこの後 そこで振り返る。 すると、眸を焼くような青い閃光が走り、思わず目と耳を覆う。 光が地平線に向かって飛んで行き、数秒たたぬうちに、轟々とした風の音と衝撃が身体を包んだ。 そして、また数秒しないうちに地平線で小規模な爆音が響く。 聞きなれない音と共に、背後から何かが次々と飛び出して行く。 それは生き物の形をしていながら、その肌を銀色に輝かせる”何か”だ。 ようやく頭を上げると、銀色の何かと、地平線の彼方からやってきた何かがぶつかり合うところだった。 自分は、まさにその境界に居た。 身を震わせる地響きと共に、声にならぬ方向を上げながら、両者は―― はっとした。 まだ耳鳴りがしているようで、身体が今そこにある気がしなかった。 しかし、あれは夢なのだ。その事実だけが、彼の頭を夢から現実へ押し戻した。 額に手をやると、思いのほか汗をかいていた。 立ち上がり、外にある水汲み場へと足を向ける。 夕闇が広がる空に、青白い月が少しだけ欠けた光を受けながら地上を照らしている。 井戸から水を汲み、豪快に頭からかぶった。 随分前から、定期的にあの夢を見る。いつも見知らぬ何かと何かの戦いの中に自分が居る夢だ。 それも、回を重ねるごとに少しずつ鮮明に、少しずつ現実的になっていく。 その感覚が嫌で仕方なかった。いったい何時まで続くのだろうか? 「眠れないのか?」 不意に後ろから声をかけられた。 振り返ると、そこには月に照らされて、赤紫色に毛色が変色した犬族のミュールが、少し心配そうな面持ちで立っていた。 「またうなされてたぞ? 例の夢か?」